ぜひ学生(高校生、学部生)に…

右利きのヘビ仮説―追うヘビ、逃げるカタツムリの右と左の共進化 (フィールドの生物学)

右利きのヘビ仮説―追うヘビ、逃げるカタツムリの右と左の共進化 (フィールドの生物学)

行動生態学者の研究のウラ話を聞ける(読める)ヘビとカタツムリのモノグラフ。

研究成果等を一般向けに書く、これは非常に科学の啓蒙活動として重要だが、少し人間味に欠けるというか、無機質な感じがして、一般の人にはとっつきにくい(感じがする)。その点、この書籍は、研究内容の紹介もさることながら、研究テーマを見つけるまでの過程、研究対象との格闘、調査の方法や苦労といったまさに研究室の「酒の席」でしか聞けないような、ウラ話をかなり詳細に展開している。これが非常に読みやすく、どんな苦労をしてきたかということが手にとるように分かる。

自分で研究テーマを持ち込むということは、まるっきりゼロからのスタートで、設備や方法も考えなければいけないし、何より先行研究の文献調査をこなしていくというのも一苦労。自分自身、学生の頃のテーマが持ち込み(に近いもの)だったので、本当にこのテーマを昔誰もやっていないのか、実は自分が読んでいない論文のなかで、先行研究があるのでは、とすごいヒヤヒヤしたのを思い出した。

所属する大学や家から遠いところで独自で調査するというのは、本当に苦労するものだ。私も、地理的なこともそうだし、なかなか対象生物が見つけられない時の心の持っていき方が本当に大変だった。なのにこの著者は一ヶ月半近くもイワサキセダカヘビを捜し求めたというではないか、すごすぎる…。

そんな苦労話も面白いし、何より研究内容が本当に素晴らしい。というか、すげー面白い。誰でも「えっ、そうなの?」って思ってしまうような内容ではないか。


近年はやりのゲノムデータや遺伝子解析というミクロな世界、または生態学をゲノムデータで解き明かすというエコゲノミクスも面白いとは思うが、(昔ながらの、といったら失礼だが)こういう「生物」を対象とした、そして、採集や実験環境、実験器具を自らが作って、試行錯誤しながら研究していくというスタイルこそ、読んでいてワクワクするし、どんどん先が気になった。

あとがきにあったDobzhanskyの言葉になぞらえた、

生態を考慮しない生物学もまた、本質を欠いた不完全な学問なのではないか

と言う言葉は非常に心に残った。