寄生峰の論文

寄生蜂キョウソヤドリコバチの野外での性比調節をマイクロサテライトマーカで調べた論文。

Maxwell N. Burton‐Chellew et al (2008)
Facultative Sex Ratio Adjustment in Natural Populations of Wasps: Cues of Local Mate Competition and the Precision of Adaptation
Am Nat 2008. Vol. 172, p393-404


キョウソヤドリコバチは、蛹に寄生する多寄生蜂で、オスの分散能力がほとんどないことから局所的配偶者競争(Local Mate Competition;LMC)のモデル生物として実験されている。


LMCとは、メスが分散する前に交尾するような、構造のある集団においては♀バイアスの性比が好まれる理由を説明する概念である。
つまり通常のランダム交配する生物では、性比は0.5が最適であるが、パッチ状に生息するなどして、それぞれのパッチ内でしか交配できないような場合、性比を0.5にすると、オス同士、特に息子同士の競争が激化してしまう。そこで、寄生峰などのように、パッチ内に複数産卵する場合、母親は最も自身の適応度を高められる♀バイアスの性比に子供を産み分けしているのではないかと考えられている。これは♀配偶子の方が大きい配偶子であるために、交尾のコストが高く、逆に♂配偶子は交尾のコストが低く、複数回の交尾が可能であることからも分かる。
さらに膜翅目の場合、近親交配によって母親から見て、息子より娘の方が血縁的に近くなる。


そんな感じで母親は1ホストに対し,♀バイアスで産卵すると理論的にも実証研究でも証明されていて,さらに1つのホストに複数個体が産みつけている場合は,自分の産卵できる数と性比に反比例の関係がある。つまり,1ホスト内における自分の子の割合が少なくなればなるほど,♂バイアスで産んでいる。前置きが長くなった。要するに実験室レベルではよくやられていたけど,実際にそれが野外で起こっているかを確かめた論文。さらに,今まで提唱されてきた様々なモデル論文の検証もしてみた。



その結果,ホスト内の自分の相対的な産卵数と性比に負の関係が見られた。これは室内での実験と同様の結果。ただ,ホスト内に他の個体の子がどのくらいいるかとか,パッチのどの程度いるかとか配偶者や競争者の血縁度とかその他もろもろの変数は性比に関係していなかった,つまり統計的な差異は検出できなかった。母親にとって,今から寄生しようとしているホストが既寄生なのか未寄生なのかが重要であり,個体間の血縁度等はそこまで重要視していないのではないだろうか。


さらに,多くのモデルが仮定しているようなパッチ内でのランダムな交配が野外では起きていない可能性も考えられた。これはパッチ内での羽化時期の差異から分かり,同じホストから羽化した個体での交尾が多いのではないかと考えられたためだ。


寄生の順番がマーカーだけでは分からないので,実際にどのような戦略をしているのか不明な点もあるが,LMC研究の今後につながる研究になるだろう。


寄生蜂に関してのマーカを用いた野外研究はあまり行われていないのでしょうか。過寄生が最大4回というのも非常に有益な結果だと思う。(もちろん,既寄生を忌避する戦略や寄主内での敵対行動があり,過小推定かもしれないが)