そこで

薬を飲んでも全然眠くならないので,以前から書きたかった論文紹介をする。
これから頑張って1週間に1本は読んでupしたいなぁ。


G. D. Ruxton and G. Beauchamp (2008)
Time for some a priori thinking about post hoc testing.
Behavioral Ecology 20: 690-694


事後検定について考えようという論文です。
よく分散分析をやって,有意差があった!よし多重比較をやろう!という流れになると思うのですが,はてどの多重比較を用いればいいのか?という疑問に陥ることは多々あると思います。それは著者らが簡単に論文を調べた感じ(behav.ecoとanimal.bevaior)でも,かなりいろいろな事後検定が使われていることが多いことからも分かると思います。しかもそれらがあまり適切に行われていない!


さて,どんな事後検定を使えばいいのかということになりますが,実際に大事なのはどのような実験計画の元に検定をしたいのか,比較をしたいのかという点に尽きると思います。

まず重要な概念として,計画性比較か非計画性比較かが問われます。

計画性比較……比較したい群がはっきりしているとき
非計画性比較……とりあえず全部の群をそれぞれ比較したいとき

さらに比較したいものが直交対比になっているかどうかを知る必要があります。

対比……A,B,Cと3群あったとき,AとBをまとめてしまって,Cと比較すること
直交……1回比較した群同士をもう一度比較しないこと
例;A,B,C,Dと4つの群があったとき
直交している場合
A,B,C vs D →A,B vs C → A vs B となる。
よーするに群数-1の対比しかできない。そしてそれぞれの対比は独立ということになり,多重比較の問題が解消される。

非直交してしまう場合
A,B,C vs D → A,C vs D とやると,DとACは2回比較してしまうことになる。


さてさて前置きが長くなりましたが,著者らが薦めている多重比較の解析方法は以下の通りです。

  • 計画性比較の場合(kは群数)
    • k(k-1)/2の比較をしたい場合(要するに全対比較)
      • 非計画性比較と同じように解析(下にあります)
    • k-1より大きい比較をしたい場合
      • 非直交データなので,EER(Experimentwise Error Rate;一連の比較でtype 1のエラーをおかす確率)をコントロールせよ。
    • k-1もしくはそれ以下の比較の場合
      • 直交性かどうかを調べ,そうならばEERをコントロールする必要なし。普通にt検定とかをすればよし。逆にk-1の比較でも非直交性ならEERをコントロールすべし。


EERのコントロールには著者らはsequential BonferroniとDunn-Sidakの方法を奨めています。
そして著者らは計画性比較をするように提唱しています。なぜなら非計画性比較の場合は,やはりどんなに頑張っても,検出力の問題がつきまとってくるからです。要するに,目的をしっかり持って計画くんで実験しろと。

  • 非計画性比較の場合
    • ANOVAと整合性のあるScheffeの方法
      • Scheffeの方法はANOVAと整合性があるので,ANOVAをやって有意差があればScheffeの方法で事後比較をやりましょう。ただScheffeの方法は少し保守的になるそうです。
    • ANOVAの結果にかかわらず多重比較をやる方法
      • Fisher's protected least significant difference test,Duncan's multiple range test,Student-Neuman-Keuls testはオススメできない。
      • おすすめはTukey honestly significantly differenced test。もしくは若干それより検出力の高いRyan's test。
      • サンプルサイズが異なる場合は,Tukeyの検定の拡張版を使う。Tukey-Kramer testやT'とGT2 testがいいそうです(どんな検定か分からないが)。さらにSokal and Rohlf(1995)はそれを3つやって一番有意差の程度が小さいやつを採用しろと言っているそうです。
    • ある一群(大概はコントロール群)とその他の群を比較する場合
      • Dunnet's testがオススメ。
  • ノンパラの場合
    • ANOVAの代わりにKruskal-Wallis検定を用いる。そして全対比較をする場合
      • Games-Howellの方法かDunnの方法がおすすめ。
    • 計画性比較でペアが少ない場合は,Mann-WhitneyのU検定をEERを先のようにコントロールしてやりましょう。

なるほど,Scheffeの方法以外の多重比較はANOVAの結果にかかわらずやることを奨めているのは驚きでした。
多群の比較はANOVAとかKruskal-Wallis検定ありきだと思ってましたから。